日常

視覚障がい者の職域を守る。

私は視覚障がい者です。

ですので、就職の選択肢が極端に狭く、なりたい職業、就きたい仕事を諦め、「自分に出来る仕事」を選びました。

それが鍼灸マッサージです。

むしろ、鍼灸マッサージが視覚障がい者の職業として確保され、盲学校で免許取得のための教育をして頂けるということは、私にとって大変な救いでした。

それだけ、鍼灸マッサージという職業は視覚障がい者にとって重要なものなのです。

先日、その視覚障がい者の数少ない職域を侵しかねない裁判の初公判が開かれました。

現在の法律で、あん摩マッサージ指圧師という国家資格は、視覚障がい者以外の取得に制限がかけられています。

そのため、専門学校などにおいて、晴眼者のためのあん摩学科の設置は認められません。

それを不服とし、郡山市の福島医療専門学校が国を相手に訴訟を起こしました。

晴眼者があん摩マッサージ指圧師になれないのは、職業選択の自由を阻害する憲法違反だと訴えています。

そもそも視覚障がい者に職業選択の自由はないのですが…。

国は視覚障がい者の人権、生存権を守るために、全面的に争う姿勢をみせています。

非常に微妙な戦いです。

現状、あん摩マッサージ指圧師の免許取得を制限していても、視覚障がい者の職域が守られているかといえば、実際はそうでもありません。

世間一般的にマッサージ業をするのに国家資格が必要だということを知っている国民がどれだけいるでしょうか?

免許取得を制限しているが故に、その認知度はかなり低く、その反面、カイロプラクターやリフレクソロジーなどの無免許施術者の方が広く認知されており、それらを「マッサージ」だと誤認している国民も多いことでしょう。

それに、本来怪我の治療をする柔道整復師が、慢性疾患に対し「マッサージもどき」を行っている現状もあり、接骨院・整骨院が「保険の効くマッサージ店」と化してきていることも問題視しなくてはなりません。

厳密に言えば、保険金の不正受給です。

これらの状況により、現時点でも視覚障がい者の職域として確保されるべきはずの「マッサージ業」は、免許を持たない施術者たちにより浸食されてしまっているのです。

しかし、浸食されない仕事もあります。

保険を使った訪問リハビリマッサージです。

保険の適用には当然免許が必要です。

近年高齢化に伴い、この業種の需要が非常に高まっており、多くの事業所が参入してきています。

最近の盲学校卒業生の多くは、この訪問リハビリマッサージの仕事に就いているようです。

これは免許を持っているからこそ就ける仕事ですので、特権と言ってもいいかもしれません。

その特権が、今回の裁判如何では失われることとなります。

訪問をするわけですから、自分で移動手段を持つ晴眼者の方が就業に有利なのは当然です。

視覚障がい者が訪問の仕事をするためには、専用の運転手を付ける必要がありますので、そのぶんの人件費がかかります。

ですので、晴眼者がマッサージの免許を取得するようになれば、間違いなく職を奪われ、多くの視覚障がい者が路頭に迷うことになります。

では訪問じゃなければいいと思うかもしれませんが、マッサージに対する療養費の支給は、ほんの数百円で、往診料を加算しなければまともな収益が得られません。

そのことを考えれば、移動手段のない視覚障がい者は不利になってしまいます。

勿論、私はそういった不安定な保険に頼らず、自由診療で晴眼の先生方と同じ土俵で切磋琢磨しておりますが、それは敢えて自分で選んだ困難な道であって、すべての視覚障がい者が歩める道ではないと思います。

障がい者福祉の観点から、今回の裁判は是が日でも国に勝って頂かないといけません。

強者が弱者を虐げるのは間違っている。

特に医療を志す人間を育成しようという学校が、社会的弱者から生きる道を奪うなどいうことは決してあってはならない。

だからと言って、視覚障がい者は周りに守られていることに甘んじて努力を惜しんだり慢心してはいけませんし、感謝の気持を常に忘れてはなければなりません。

そして、鍼灸マッサージで社会に貢献し、社会の一員として胸を張って生きていくことが必要です。

それを踏まえた上で、職業選択の自由と、視覚障がい者の命、どちらが大切なのか。

裁判所には、心のある、血の通った判決を望みたいと思います。

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コメント

    • 宍戸 一博
    • 2016.10.05 3:48pm

    考えさせられる内容でした。気づきをありがとうございます。

      • hari-kori
      • 2016.10.05 6:07pm

      >宍戸一博さん
      コメント頂きありがとうございます。
      一般的にはさほど注目されていない訴訟でしょうから、メディアなどで取り上げられることもないので、こういう場所でしか知り得ないことかと思います。
      今後もこういった情報発信を続けていきたいです。

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